Other

昨日の夜中、僕の隣の席の女の子が死んだ。
死因は自殺で、夜中までこっそりと学校に残ったのちに鍵を盗み取り屋上から飛び降りたらしい。律儀に上履きは揃えて置かれていて誰かに押されてしまったようだ。
楠見 晴。20××年2月15日生まれの彼女は死ぬにはまだ若過ぎる。
ちょうど彼女が飛び降りた先の花壇は、彼女が毎朝よく水をやっていたものだった。楠見が毎日綺麗に育てていた花達を全てぐしゃりと本人が崩した。僕が登校する時間はかなりの早朝が多く、まだ通報されていなかった。
水を含んだ花壇の土が跳ね返り花壇の周りと彼女の肌にこびり付いてしまっている。水分がもう抜けていたらしくポロポロと土が肌から離れてゆく。死体の周りを囲うように色とりどりの花が綺麗に装飾していた。土がクッション代わりになったのか身体がぐしゃぐしゃになってはいなくて、なんとも彼女の姿は美しかった。
誰もいない教室に入って、彼女の死体を無視した。座ってちょうど下に見える死体を視界に入れながら、彼女に心の中でさよならを告げた。
その日も変わらず、やっと通報されたあと少し先生達が来なくなっただけで何一つ問題も無く退屈な一日が終わる。
彼女の近くに咲いていた背の高いキスツス、午時葵という綺麗な白い花が少し赤く染まっていた。僕はそれを立ち入り禁止テープの内にこっそりと潜り込み、一つ摘んだ。放課後にもなると皆もその話題に飽きたようで、人間の中に流れていくようだった。僕はその午時葵に顔を近づけて匂いを嗅いだ。鉄分の匂いが仄かに漂う桃色に変わった花びらにうっとりとしてしまう。ああ、これが彼女の透き通った肌の下に高速で流れていた液体。死体は既にブルーシートを掛けられ、見られないようにされていて眺めることができなかった。僕はその手に持った花を少し迷った後に、ぱくりと花びらを咥えた。それが体に害が有るのかもわからないけれど、彼女の生きていた証を目の前にしていると体内に入れずにはいられなかった。体内に取り込んだ花びらは少なからず、彼女の血液が含まれているはずでそれがいずれ少しでも僕を形成するものになると考えると興奮してしまうのは仕方なかった。
僕は口に出さ無いし、彼女が僕の行いを直接見られる訳ではないから背中を押したのを不思議に思ってるんだろうな。僕はやはり謝らなきゃいけないことがある。
まず、彼女の背中を押したこと。その前に拘束して夜中まで残らせたこと、彼女に電話をさせて泊まりだと言わせたこと、彼女の周りに咲くようにキスツスを植えていたことかなあ。
けれど楠見もいけないんだ。僕にそうさせたのは楠見だ。
僕以外の人と笑顔で喋る、僕のことをいないものだと考える、僕とせっかく隣の席なのに他の奴に隣の席が良かったって言う、ああ…挙げだしたらきりが無いな。もっとあるんだ、楠見の過ちは。
けれど僕は楠見の事が嫌いな訳ではないから、最期を綺麗に飾ってあげる優しさは持ち合わせているんだ。だから、ロマンティックにキスツスを植えて君の見知らぬ内に育てさせていたんだ。花言葉を知っているかな?私は明日死ぬだろう、なんだ。君の起きることを予言しているみたいで面白いだろう?
まあ、君と喋った事は無いんだけれどね。僕は只のクラスメイトの一人としてコメントしてみたよ。
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