Other


「…今まで、ずーーっと長い間“仲良く”してくれてありがとう」
そう彼女は言った。

彼女…早峰はずっと虐められていた。殴られ、蹴られ、捨てられ、…やっていたのは数名だったがクラス全体が見て見ぬフリをした。教師までも。彼女が何回も何回も助けてと言ったかもうわからない。いずれそれが殺してに変わったのかもクラスメイトはきっと全員わからない事だろう。彼女はその程度の存在だったからだ。早峰は転校生で全然馴染めず、スクールカーストで1番上に存在する遠矢に目を付けられてしまった。早峰は地味な嫌がらせを沢山されて来てそして段々とエスカレートして行った。でもそれが今日終わる。

伸びっぱなしで放置されていた様だった黒い髪の毛はさらりとした金髪のストレートショートになっていた。何より驚いたのは早峰の顔立ちだった。ずっと黒髪に隠されていた素顔は恐ろしい程に整っていてきっと美しいとは彼女の事を言うかの如くだった。まるで陶器のような毛穴ひとつ見当たらない肌に大き過ぎず主張する瞳、通った鼻筋にピンクの唇。その姿にクラスメイト全員は目を奪われた。
朝のホームルームの開始のチャイムの後、ガラリと扉を開け入って来た彼女に視線が集中した。早峰、とうとう逃げたんだぁなんて言う笑い声とそれを無視して話し続ける教師。彼女が入ってくるとすぐにそれは収まった。そのあと誰?とか転校生?とか。そういう言葉が次々と飛び交った。目を丸くしている教師を押し退けて教卓のそばに立った。そしてにっこりと笑った彼女はこう言った。
「早峰です。今日はみんなにお礼をしようかと思って」
そう言った後にはたまたにっこりと笑う。クラスメイトはざわざわとし始め、遠矢に至ってはすぐさま暴言を吐き始める。そんな人達を横目に見て、彼女は冒頭の言葉を言った。すると、遠矢が言った。
「頭可笑しいだろ!なにイキがってんーー」
バカにした言葉が途中で止まった。パン、という銃声と共に。シン、と静まりかえる教室で早峰はただ1人くすくすと笑っていた。あの綺麗な、美しい微笑みの顔で。
「ごめんね遠矢さん。あなたの目に命中させるつもりだったのに、ずれちゃったぁ」
ふふふ、と上品に笑った彼女に遠矢は怒りを露わにした。ズレたお陰で後ろの壁に銃弾が当たり、遠矢は無事だった。バン!っと大きな音を立てて立ち上がり早峰の方に近付いた。大きな足音を立て歩く遠矢に早峰は溜め息を吐き、ピストルを教卓に置いた。それを見逃さず凄い速さでピストルを遠矢が取った。そしてそれを速峰の顔に向けた。
「バッカじゃないの?アンタは一生勝てないの、よ!」
最後の一文字を大きくして引き金を引いた。クラスメイトの大概は顔を真っ青にし、引きつった顔になっていた。だが何も銃声がしない。したのはただ引き金が動いた音のみだった。くす、とまた上品に笑ってピストルの口を速峰が掴んだ。
「あぁ、そんな顔しないで?私、遠矢さんのこと好きなの」
掴んだ銃口をグッと引き、遠矢は持つ力を弱めていたようで速峰は奪い取ることができた。その瞬間、ガシャン!っと大きな音を立てて窓に投げ付けた。窓は呆気なく割れてピストルは外へと飛び出して行った。
「…っ!バカにすんなよ!!!!」
煽られた遠矢は腕を振り上げた。それでも速峰は変わらず笑顔のまま。何もしないまま受け入れた。パン!大きな音が静かな教室に響いた。肩を上げて怒っている遠矢に早峰は叩かれ、その反動で横に倒れた。それをいいことに遠矢は馬乗りになって腕をまた振り上げた。
「ふふっ、」
振り上げた腕はぴたりと固まった。
「あ、ああああああああ!!!??や、目、めがぁっ!?!?」
早峰の指3本が遠矢の目にめりめりと入り込んでいた。遠慮なしに微笑みながらぐりぐりと左右に回す早峰の手はどんどん血に塗れて行った。遠矢の叫びは止まらない。
「…やだ、死なないでね」
そう言ってぴたりと動きを止めゆっくりと引き抜いた。それでも遠矢はさっきよりは収まったものの叫び続けていたままだった。遠矢を押し退けて立ち上がり教卓のそばにまた戻る。そうして彼女は言った。
「私は絶対にみんなを殺しません。死なせない」
その言葉でホッと胸を撫で下ろした人が数名。彼女の本心は恐ろしいものだというのに。
「例えみんなが殺して、死にたいって願うようになっても私は絶対に殺さないし死なせない」
鋭い人は彼女の恐怖を知り始める。
「もういちど言うね」

「今日はみんなに"お礼"しようかと思って」
そう言って彼女はにっこりと、にっこりと笑って心の内で嗤った。
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